紙脈×グソクムズ ~言葉と音楽ができる前、それは思考の空間を散策することだった @SICF~

私たちは「読む」とは、ページの文字を目で追うことだと信じている。
けれど本当の読書は、言葉になる前の気配や、物体の沈黙に耳を澄ますことかもしれない。

考えを巡らせるとは、思考の中を歩くこと。そこには、確かに「空間」がある。
本作《紙脈》は、音楽家・グソクムズが曲を生み出す以前の、まだ音や言葉にもなっていない
「前思考」の空間を、本という構造に見立てて装丁するインスタレーションである。

展示空間には、奥行き109mmの格子構造が4層にわたり重なる。
“エディトリアルグリッドシステム”のような視覚的秩序を持ちつつ、
意味の定着を拒む未読のページたち。
そこに置かれた、蠢く紙や未定義のイメージを、観者は空間を歩きながら“読む”。

発想の源には、ある映画のシーンがある。
──女性が情事のあと男の部屋を歩き回り、
写真やアクセサリーから彼の人間性を読み取るような、あの感覚。

ページではなく空間を辿って物語を掴むような、身体的で直感的な読解行為。
まだ、紙面として体を持たない、抽象空間を文字ではない印象という記号で読み解く。

言葉になる前のものを読むとは?
「本の手前」を読むとは?
この空間は、それを探るための一冊の本である。

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